「鶴見川多目的遊水地」ってなに?新横浜公園のひみつ

近年、大雨などにより全国各地で非常に激しい水害が発生しています。
港北区を流れる大きな川と言えば「鶴見川」ですが、鶴見川って氾濫しないの?鶴見川の水害対策ってどうなっているのだろう?と心配になりますよね。

はじめに

みなさんは台風や線状降水帯などで大雨が降ると、新横浜公園や日産スタジアムが水に沈むことをご存じですか?
実は、新横浜公園全体が「鶴見川多目的遊水地」の一部となっていて、鶴見川が氾濫した場合に遊水地に水を流して街を守る仕組みになっています。

鶴見川多目的遊水地
水に沈んだテニスコートや遊具広場

日産スタジアムには、過去に浸水した水位を示すこんな柱もあります。

鶴見川多目的遊水地

「計画高水位」(想定している最も高い水位)は8.57mです。

2024年9月現在の過去最大水位は「5.90m」(2014年10月6日の記録)だそうです。

差があるように見えますが、想定最大規模の雨が降るとここまでの水位が予想されるということですからもちろん油断はできません。

鶴見川はくねくねと曲がっているため洪水が起こりやすく、昔から“暴れ川”として有名でした。さらに鶴見川流域では急激な市街化が進んだことで保水機能がある山林や、遊水機能をもつ田んぼや畑が減ってしまい、水害が起こりやすくなっていたそうです。

新横浜公園があるあたりは鶴見川と支流の鳥山川が合流する地区で、もともと自然の遊水機能があったのですが、総合治水対策の一環として、川の水の流れをコントロールする「越流堤」や遊水地と周りの土地を隔てる「周囲堤」などを整備して作られたのが「鶴見川多目的遊水地」なんだそうです。
総貯水量は390万立方メートルで、25メートルプール約10,000杯分の水を溜めることが出来るのです。(国土交通省HP「鶴見川流水マスタープラン」参照)

鶴見川多目的遊水地のすぐそばには「地域防災施設 鶴見川流域センター」があります。
「鶴見川流域センター」では、遊水地について展示パネルなどで詳しく知ることが出来るのですが、実際にどんな仕組みになっているのか、どうやって私たちの街を洪水から守っているのか見てみたい!ということで、鶴見川流域センター主催の「鶴見川多目的遊水地の一周ウォーク」に参加してきました

鶴見川多目的遊水地一周ウォーク
2024年6月15日に開催された「遊水地一周ウォーク」のチラシ

「鶴見川多目的遊水地の一周ウォーク」レポート

地域防災施設鶴見川流域センター 
鶴見川多目的遊水地一周ウォークへ出発!  周囲堤から越流堤へ
亀甲橋(かめのこばし)で、ひと休み 鶴見川の生き物観察
ふだんは入れない!排水門の中へ! 亀甲橋から排水門へ
立ち入り禁止エリアもいよいよ終了 鳥山川との合流地点から鳥山大橋へ
遊水地内の建物のひみつ 横浜ラポール、日産スタジアム、新横浜公園

鶴見川多目的遊水地
出典:国土交通省京浜河川事務所ホームページより
https://www.ktr.mlit.go.jp/keihin/keihin00013.html

①地域防災施設鶴見川流域センター 

2024年6月15日(土)9時30分、「地域防災施設 鶴見川流域センター」に集合しました。
良いお天気で一周ウォーク日和です。

1階のコミュニティルームでお土産の遊水地カード、鶴見川流域生きものガイドブック(ガイドブックは子どものみにプレゼント)などをもらって、さっそく「鶴見川多目的遊水地の一周ウォーク」に出発です。
このイベントでは周囲堤~越流堤~囲僥堤と、遊水地の周りをぐるっと歩いて見学します。

日産スタジアムをはじめ、横浜市の総合保険医療センター、総合リハビリテーションセンター、障害者スポーツセンター(横浜ラポール)などの建物は、遊水地内に建てられています。遊水地に水が溢れたときにこれらの建物はどうなるのでしょうか。河川事務所管理の普段は立ち入れない区域や、排水門にも登れるということで楽しみです。

まずは流域センターの屋上から、遊水地全体の様子を見学しました。
鶴見川多目的遊水地は公園を遊水地にしたのではなく、「もともと遊水地として作った場所を普段公園として使う」という発想の元に水に沈んでも大丈夫な設備や建物を作ってあるのだそうです。

鶴見川多目的遊水地
鶴見川多目的遊水地
屋上からの景色
鶴見川多目的遊水地
航空写真でみる多目的遊水地。中央に日産スタジアムが見えます。

②鶴見川多目的遊水地一周ウォークへ出発! ~周囲堤から越流堤へ~

今日の「鶴見川多目的遊水地一周ウォーク」で歩くエリアを確認して、いよいよ出発です。
鶴見川流域センターから時計回りに周囲堤に沿って歩きながら、遊水地についての説明を聞きます。

周囲提(しゅういてい)とは、遊水地を取り囲むように設けられた堤防で、遊水地と周りの土地との間に位置する堤防のことです。

これまで遊水地に水が入ったのは24回で、最も多かった年で年3回(2024年9月現在)。テニスコート近くの第2レストハウスの軒下(高さ3.4m)まで水位が上がったのが過去最大量、許容量の4割程度で、排水は1日で可能なんだそうです。

「遊水地の一帯はもともとは田んぼだったので、遊水地内には今でも一部に田んぼが残っています。昔は小机堰(可動堰)があり、田んぼの時期には流れを堰き止めていたんですよ。」

「水鳥を保護するために、新横浜公園ではそれまで来ていた水鳥の数を守れるように減勢池(越流堤から流入した水の流れの勢いを減少させるための池)の面積を考えて作られていて、7haの水面を確保しています。」

などのお話しを聞きながらテニスコート、野球場などを右手にしばらく歩いて行くと、いよいよ通常立ち入り禁止エリアに入ります。

鶴見川多目的遊水地

職員の方が普段は施錠されているゲートを開けてくれました。立ち入り禁止エリアに入って少し行くと、越流堤があります。

越流提(えつりゅうてい)は、遊水地と河川の間にある堤防(=囲僥堤)の一区間を、周辺の堤防の高さよりも低い構造にして、増水時に河川の水を流入させる施設です。

鶴見川多目的遊水地
越流堤から最初に水が流れ込む「減勢池」

越流堤は周囲の堤防の高さよりも低い構造になっていて、増水時に河川の水が事前に流入されるようになっています。

越流状況は越流堤の上流・下流の2箇所で越流の高さ(水深)と速さ(流速)を計測していて、ライブカメラではリアルタイムの映像をインターネットで見ることができるようになっています。また、遊水地内は 5地点で水位が観測出来るようになっています。

鶴見川多目的遊水地
ライブカメラ(写真左)と水位計(写真右)
鶴見川多目的遊水地
水深計&流速計。白線で囲われている部分の水深と水流を計測します。

③亀甲橋(かめのこばし)で、ひと休み ~鶴見川の生き物観察~

亀甲橋の下で小休憩。鶴見川に生息する生き物を紹介してくださいました。

職員の方があらかじめ亀甲橋で捕獲したボラやエビ、モズクガニなどを用意してくれていました。

鶴見川はあまりきれいなイメージがなかったのですが、下水処理が進んできれいになったので、今ではアユが釣れることもあるそうです。鶴見川には漁業権がないので誰でも魚を取ることができます。(ただし6月1日より前はアユをとってはだめ、など魚の種類によって、全河川共通のルールはあります)

鶴見川多目的遊水地

今日は職員の方が投網でアユの捕獲に挑戦してくれます。お魚が捕まえられるのか、参加者みんな固唾を呑んで見守ります!

鶴見川多目的遊水地

残念ながらアユは取れませんでしたが、3回の挑戦でモズクガニやヨシノボリ、大きなボラなどが釣れました。

鶴見川多目的遊水地
ヨシノボリはお腹に卵を抱えていました。お腹の部分が青くなっているのが卵です。(写真右)

鶴見川に生息するいろんな生き物に子ども達も興味津々。夏にはお魚取りイベントも企画されるそうなので、是非参加してみたいと思いました。

④ふだんは入れない!排水門の中へ! ~亀甲橋から排水門へ~

水辺でゆっくり涼んだ後は、いよいよ排水門に向けて出発です。

鶴見川多目的遊水地

「排水門(はいすいもん)」は、遊水地に貯まった水を排水するための水門施設のことです。

遊水地に水が入るときは、越流堤から勝手に入るのですが、排水はこの排水門を開けて行ないます。
越流堤にあるセンサーで水の勢いや水位の上昇を測っていて、雨がやんで鶴見川の水位が落ち着いてきたら排水門を操作して水を戻すのですが、操作は国土交通省京浜河川事務所の職員が鶴見川の水位を確認しながら行なっています。鶴見川の水位が遊水地の水位より下がったときに、排水門を開く操作を行ないます。

鶴見川多目的遊水地
排水門のゲートはワイヤーで吊られていて、上部にあるウインチで引き上げることで開きます。
排水門の入口。普段は施錠されています。
ヘルメットをかぶって、いよいよ排水門の中へ!階段を上っていくと、、、
制御室に到着しました。排水時には、ここにある2台のウインチでゲートを引き上げます。
排水門からの眺め
鶴見川多目的遊水地
普段人が立ち入らないからか、階段の踊り場には鳥が卵を産んでいました。

⑤立ち入り禁止エリアもいよいよ終了 ~鳥山川との合流地点から鳥山大橋へ~

排水門に別れを告げて、鶴見川と鳥山川の合流地点へ向かいます。

鶴見川多目的遊水地
合流地点の様子。写真右の右手側に鳥山川が流れています。

鳥山川に沿ってそのまま進むと、立ち入り禁止エリアの終点「鳥山大橋」に到着です。

今日歩いてきたところを地図で説明してもらいました。

このあとは新横浜公園を通って、横浜ラポール、日産スタジアムへ向かいます。

⑥遊水地内の建物のひみつ ~横浜ラポール、日産スタジアム、新横浜公園~

遊水地内には、横浜ラポール、日産スタジアムなどの建造物があります。これらの施設は河川から水が遊水地内に流入しても浸水しないピロティ方式(高床式)になっているので、その構造を見学しました。

横浜ラポール

鶴見川多目的遊水地

横浜ラポールを南側から見ると、高床式になっているのがわかります。(1階部分は駐車場なので水に沈んでも影響がない)

日産スタジアム

鶴見川多目的遊水地

日産スタジアムも下にある駐車場の天井が高めに作られていて、遊水地に水が流入してもスタジアム内には影響が無いようになっています。

ほかにも、「日産フィールド小机」の横にある第1レストハウスは防水扉があって建物内への浸水を防ぐことができるようになっていたり、鶴見川多目的遊水地内の建造物には、水に沈んでも大丈夫な工夫がいたるところにあります

自動販売機や精算機は?

新横浜公園には多数の自動販売機や駐車場の精算機など、水に沈んだら困りそうなものがありますが、大雨の予報が出るとそれらは業者の方が撤去に来るそうです。

大雨のたびに回収なんて大変そうですが、それだけの手間をかけてでも、自動販売機などの売り上げが見込めるので、良いのだそうです。

過去に1回だけ駐車場の精算機の回収が間に合わずに壊れてしまい、半年くらい駐車料金が無料になったことがあったそうです

鶴見川多目的遊水地
水に沈むことを前提に作られている日産フィールド小机と駐車場。

そろそろ本日のツアーも終了です。鶴見川流域センターに戻ってきました。

暑い中たっぷり2時間歩いた「鶴見川多目的遊水地一周ウォーク」でした。子ども達もみんな頑張って最後まで歩きました。お疲れ様でした♪

鶴見川多目的遊水地

【鶴見川流域センターも見どころいっぱい】

鶴見川流域センターに到着したところでイベントは終了でしたが、子ども達は流域センターの展示に興味津々で、ツアー終了後しばらく遊んでいました。

入ってすぐのところには、鶴見川流域に生息するお魚を展示している「水族館」があります。水槽が低いので、小さい子も見やすいです。タッチプールもあって、この日はカニとザリガニが展示されていました。

鶴見川多目的遊水地

館内には職員さんが作った生き物についての説明やイラストがたくさんあります。とてもわかりやすく、見ていて楽しいです。
カブトムシやジャコウアゲハ(幼虫)などの水辺の生き物以外も見ることができます。

鶴見川多目的遊水地

鶴見川多目的遊水地
生き物探し (受付で用紙をもらい、部屋の中でその生き物を探して名前を書く)やクロスワードパズルをしている子もいました。

図書室があり、絵本コーナーもありました。月に一度、お話会(ツルさんバクちゃんのおはなし会)も開催されています。また、防災情報などのパネル展示もたくさんあり面白かったです♪

鶴見川多目的遊水地
遊水地の説明や新横浜公園の浸水時の写真もありました。

遊水地一周ウォークに参加した感想

【編集メンバーS】
普段は間近で見ることができない越流堤や排水門など、職員の方からお話を伺いながらゆっくり回ることができてとても貴重な経験でした。鶴見川に生息している生き物も沢山見ることができて、子どもたちも興味津々だったようです。他のイベントにも参加してみたいな、と思いました

【編集メンバーT】
一周ウォークはなかなか長い道のりでしたが、職員の方が随所でいろいろな説明や裏話をしてくださったので楽しく歩けました。いつも何気なく見ている遊水地が、どんなふうに作られていて、どのように機能しているのか知ることができてとてもおもしろかったです。
また、ツアーの後に今回はじめて流域センターに行ったのですが、「上の子が小さいときから来ておけばよかったー!」と思いました。広すぎないので目も届きやすいです。上の子(4歳)は生き物探し、下の子(1歳)はずっと水槽の魚を見て楽しんでいました。野鳥観察や池でのボート体験などいろいろなイベントも開催されていて、小学生になってからも楽しみながら学ぶことができそうです

★「地域防災施設鶴見川流域センター」のイベント情報はこちらのサイトでチェックしてくださいね。

★2018年度のココマップおでかけ企画で流域センターにお邪魔しました♪
行ってきました!地域防災施設 鶴見川流域センター

★「鶴見川多目的遊水地」基本データ
所在地:横浜市港北区小机町、鳥山町
河川名:鶴見川水系鶴見川
遊水地面積:84ha
総貯水量:390万立方メートル
越流堤延長:450m
流入方式:自然越流方式
排水方式:自然排水
昭和60年(1985年)着工、平成15年(2003年)6月に運用開始

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